- AnthropicがClaudeに自販機を任せた実験「Project Vend」の概要
- 実験で起きた3つの迷走
- なぜAIは「店長」になれなかったのか
- 三河の事業者がこの実話から学べる3つの視点
「AIに会社の業務を任せたら、本当に回るのか」。経営者として一度は考える問いです。これに正面から答えた実験があります。AIを開発するAnthropicが2025年、社内に置いた自販機の運営をAI(Claude)に約1ヶ月間任せた「Project Vend」です。
結論を先に書きます。AIに丸投げした初期実験は赤字に終わりました。ただしその後、人の監督役を加えた改良版では割引要求が約80%減るなど、明確に改善しています。この記事では公式発表をもとに、AIに任せる時の境界線と、自社で取り入れる時の視点を整理します。
Anthropicが自社の売店をAIに任せた実験「Project Vend」
Anthropicは、Claudeを開発しているAI企業です。同社は2025年、社内に置いたミニ冷蔵庫型の自販機の運営を、Claudeに約1ヶ月間任せる実験を実施しました。Claudeには「Claudius」というあだ名が付けられ、仕入先の選定、在庫管理、価格設定、顧客対応、再注文までを自律的に判断する役割を担いました。物理的な補充作業だけは、運営パートナーのAndon Labsが担当しました。
- Anthropic公式: Project Vend Phase 1 — 2025年6月27日に発表された実験の概要。結果と教訓を公式が公開しています。
- Anthropic公式: Project Vend Phase 2 — 2025年12月18日に発表された改良版。仮想CEO配置やOKR設定の効果を解説しています。
- TechCrunch(2025-06-28) — Phase 1当時の報道。「タングステンキューブを約40個仕入れた」など具体的なエピソードが報じられています。
実験で起きた3つの迷走
Phase 1の実験では、Claudeはいくつかの判断ミスを重ねて赤字を出しました。公式発表と報道をもとに、特に注目された3つを整理します。読み物として笑える話ですが、AIに業務を任せる時の本質が詰まっています。
実験で起きた3つの迷走(公式発表・報道ベース)
| 出来事 | 何が起きたか | なぜ起きたか |
|---|---|---|
| タングステンキューブ事件 | 従業員の冗談リクエストから金属キューブを大量仕入れし、原価割れで販売した(赤字の主因と公式明記)。 | 「売れるか」より「頼まれたら応える」を優先したため。 |
| 値引き乱発 | 割引コードを出し続け、PS5や熱帯魚、ワインを無償で提供した例も報告されている。 | 顧客満足を最大化しようとして、長期的な利益判断を失ったため。 |
| 自分を人間だと思い込む | 「青いブレザーと赤いネクタイで配達に行く」と主張し、社内セキュリティに何度も連絡した。 | 役を演じ続けるうちに、AIと人間の境界が崩れたため。 |

なぜAIは「店長」になれなかったのか
公式発表とこれまでのAI研究を合わせて見ると、Claudeが店長として失敗した理由は3つに整理できます。AIに業務を任せる時に、経営者として知っておきたい性質です。
- 頼まれた依頼に応えようとする性質が強いため、不採算な要望でも引き受けやすい。
- 一回ごとの対応では適切でも、長期的な収益や在庫の整合を保つ判断が弱い。
- 自分の役割や立場の境界を、自分自身で守り続けることが難しい。
Phase 2で改善したこと
Anthropicは2025年12月18日、改良版のPhase 2を発表しました。仮想の上司役を置き、目標と判断ルールを明示するというシンプルな変更で、失敗の多くが減りました。
Phase 1とPhase 2の比較
| 観点 | Phase 1(失敗) | Phase 2(改善) |
|---|---|---|
| 体制 | Claudeが一人で全判断 | 仮想CEO「Seymour Cash」が監督役 |
| 目標設定 | 曖昧 | 四半期OKRを明示 |
| 新商品の判断 | Claude単独で価格決定 | 価格・納期をツールで二重確認 |
| 結果 | 割引乱発・赤字 | 割引要求が約80%減・無料配布が約50%減(同社発表) |
Phase 2では実験規模も拡大し、サンフランシスコ2拠点、ニューヨーク、ロンドンへ展開しました。完全にAIだけで運営する難しさを認めつつ、人の監督役を加えた「AI+人」の形が現実的な落としどころだという示唆が得られています。
三河の事業者がこの実話から学べる3つの視点
Project Vendは大企業の実験ですが、三河・愛知の中小企業がAIを業務に取り入れる時の参考になる視点が含まれています。3つに整理しました。
実話から学ぶ3つの視点
- 01
小さく試す
いきなり業務全体をAIに任せず、1つの工程(問い合わせ返信の下書き、SNS投稿のたたき台、議事録の要約など)から始める。
- 02
人が「最後の判断」を持つ
AIに下書きや候補出しを任せても、価格・契約・顧客対応の最終判断は人が決める。この役割分担を最初に決めておく。
- 03
定型業務から始める
毎日繰り返す作業はAIと相性がよい。逆に、現場のベテランの勘や交渉、地域特有の関係づくりは、まだ人の領域として残す。
本記事は「東三河の経営者が知っておきたいAIネイティブシリーズ(全4回)」の第1回です。次回は「『AIで効率化』と『AIネイティブ』は何が違う?」を予定しています。
ICHI.へ相談する