- 学校の校務でAIを使う教員が91%まで進んだ事実
- 全く使っていない教職員が16.3%まで減った変化のスピード
- 3〜5年で社会人になる若手と向き合う時間軸
- 既存社員と一緒に始める業種別の入口(建設業・飲食業・小売業)
- 採用面接で会話素材として使える論点
- 自社が効率化フェーズかネイティブ化フェーズかの判定
- 社内ルール整備の入口
- 連載第2弾の予告
この記事は、連載「社員と一緒に育つAI|中小企業の人材育成シリーズ」の第1弾です。テーマは「採用優位」ではありません。これから入社してくる若手と、今いる社員と、経営者自身が、一緒にAIと向き合う時間をどう作るか、という話です。
前提として「学校でAIが進んでいる=若手はみんなAIを使いこなせる」とは書きません。実際に進んでいるのは「教員側」です。生徒・学生がどれくらい使いこなしているかは、教員調査の数字からは直接は読み取れません。ここを混ぜずに、事実は事実として読み、そのうえで三河・愛知の中小企業の経営者がどう備えるかを整理します。
何が起きたか。教員91%・全く活用なしが16.3%という数字
2025年11〜12月、株式会社MM総研が全国の小中学校・高等学校の教員2,062名を対象に、校務でのAI利用実態を調査しました。結果の核は次の3つの数字です。出典はMM総研 2025年11-12月調査プレスリリースです。
- 校務でAIを使う教員は全体で56%。「校務」は授業準備・資料作成・保護者向け文書・テスト作問など、教員が日々こなす事務寄りの仕事を指します
- 公立高校に絞ると、その割合は91%まで上がります。10人中9人の高校教員が、校務のどこかでAIを使っている計算です
- 使っているサービスの68%は、Google Workspace(GeminiやNotebookLM)またはMicrosoft 365(Copilot)の中のAI機能です。個人版ChatGPTを使っているのは1%にとどまります
主語はすべて「教員」です。生徒や学生がAIをどれくらい使いこなしているか、という調査ではありません。同じ調査のなかで「課題を感じている」と答えた教員は81%にのぼり、内訳はセキュリティ42%・著作権41%・ルール整備39%でした。学校側も、便利だから無条件に使っているわけではなく、課題と並走しながら使っています。この温度感は、中小企業の経営者にも伝わる感覚だと思います。
もう一つ、文部科学省が2026年4月30日に公表した「学校教育におけるAI活用に関するこれまでの取組」(文部科学省 公表資料PDF)に重要な推移データがあります。「校務でAIを全く活用していない教職員」の割合の推移です。
- 令和5年度(R5):76.7%
- 令和6年度(R6):58.9%
- 令和7年度(R7):16.3%
3年で「全く活用していない教職員」が76.7%から16.3%まで減りました。1年で約20〜40ポイントずつ動いています。さらに同じ資料には、教職員の半数以上がAIを活用した学校では98%が「働き方の改善に効果があった」と回答したとの記載もあります。「使う側」の景色が、3年でこれだけ変わったということです。
パイロット校(生成AI活用の指定校)の拡大も急です。同資料によると、R6年度66校、R7年度281校、R8年度478校と1年で約1.7倍ずつ増えています。指定教育委員会には愛知県・名古屋市・春日井市・知多市・一宮市が含まれます。愛知県内も例外ではありません。
これが意味すること。3〜5年で社会人になる若手と向き合う時間軸
もう一度書きます。学校で進んでいるのは「教員側」の校務利用です。生徒・学生本人がAIをどれくらい日常的に使いこなしているかは、この調査からは直接は読み取れません。「だから新卒はみんなAIが使える」という飛躍はしないでください。ここを断定すると、入社後の現場で「思っていたのと違う」という事故が起きます。
では、何が言えるか。少なくとも次の3つは事実として置けます。
- 今、高校に通っている生徒の周辺で「先生がAIを使って授業準備や資料を作る」のは珍しくなくなっている
- パイロット校では、生徒自身が生成AIに触れる機会も設計されている(文部科学省 公表資料)
- 3〜5年で社会人になる若手は、学校でAIに「触れた経験」を持って入社してくる可能性が、今までの世代より明確に高い
逆に、断定できないことも整理しておきます。「AIを業務で使いこなせるレベル」と「学校で触れた経験がある」は別物です。三河の中小企業の現場で求められるのは、見積書の文面を整える、取引先メールの温度感を保つ、議事録の要点を抜き出す、といった「自社の業務に合わせて使う」レベルです。これは入社後に身に着けるもので、学校教育で完成して入ってくる類のものではありません。
つまり、経営者がやるべき準備は「AIを使える若手を採用する」ではなく、「入社してきた若手・今いる社員と一緒に、自社の業務でAIをどう使うかを決めていく」側です。これが、本連載が「採用」ではなく「人材育成」をテーマにする理由です。
時間軸はもう一つあります。3年で「全く活用していない教職員」が76.7%→16.3%まで動いた事実は、「社会全体のAI導入カーブが、想像より急だった」ことを示唆します。経営者として「うちはまだ早い」と判断するのは選択肢の一つですが、その判断は「3年後に同じ判断をしている前提で考えていいか」を一度確認してから下した方が安全です。
今いる社員と一緒にやれること。業種別3つの入口
ここからが本題です。新卒採用の話を一旦置いて、「今いる社員(パート従業員を含む)と一緒に、自社の業務でAIをどう使い始めるか」を3つの業種で具体的に書きます。共通する考え方は「既存社員と一緒に育つ」です。社長一人がAIを覚えて指示する形ではなく、現場の人と一緒に試す形を想定します。本格的な進め方はAI業務効率化の始め方|三河の事業者が最初の1週間でやるべき3ステップも参考にしてください。
建設業:現場の写真メモを社員と一緒にAIで整理する
建設業の現場で、職人さんがスマホで写真を撮りながら気付いたことを口頭で伝える、現場監督がそれを後でまとめて書類化する、という流れがあります。この「写真メモを書類化する」工程をAIに手伝わせる取り組みが、三河でも少しずつ始まっています。
やり方はシンプルです。現場で撮った写真について「何が写っているか」「気付いた点は何か」を職人さんに口頭で1〜2分話してもらい、スマホで音声入力してテキスト化します(iPhoneのマイクボタンや、LINEのメモ機能、メモアプリの音声入力など、すでに使い慣れたアプリで構いません)。そのテキストをChatGPTやGeminiに貼り付け、「現場日報の体裁に整えてください」と頼みます。これだけで、現場監督が事務所で30分かけていた書類化が、5〜10分の手直しで済む下書きになります。
大切なのは、入力する人を社長や監督だけに絞らないことです。職人さんに「自分の言葉で口頭メモを残してもらう」ことに参加してもらうと、現場の温度感が書類に乗ります。AIが整える側、現場の人が話す側、という役割分担です。
飲食業:パート従業員と一緒にメニュー説明文・SNS投稿文を作る
新卒採用がない街中の飲食店でも、既存のパート従業員と一緒に始められる場面があります。代表的なのは、メニューの説明文や、SNS投稿文の下書きです。
例えば新メニューを出す時、料理長や店主が「素材」「調理法」「お客様に伝えたい味の特徴」を口頭で3〜4行話す。それをパート従業員がスマホでメモして、ChatGPTに「メニュー表に載せる60文字以内の説明文を3案作ってください」と依頼する。返ってきた3案のなかから店主が一つを選び、最後に手直しする。この流れだと、店主の頭の中にしかなかった「料理の核」が、説明文として外に出てきます。
SNS投稿文も同じです。「今週は鮎が入った」「今日のランチは魚定食」といった素材を、パート従業員と一緒にAIに渡して、Instagram投稿文の下書きを3パターン作ってもらう。投稿担当が日替わりで変わるお店でも、文の調子をある程度揃えられます。「冷たくならない」「お店の温度感を保つ」ためには、お客様への気持ちを汲んだ表現で、と依頼に一言添えるのがコツです。なお、居酒屋・定食屋・カフェなど業態を問わず、同じやり方で使えます。
小売業:顧客対応メールの下書きを社員と一緒に作る
小売業(衣料品店・雑貨店・専門店など)の現場では、お客様からの問い合わせメール、予約変更、お礼の返信、商品案内など、毎日少しずつ発生する顧客対応メールが多いはずです。これも社員と一緒に始める入口に向いています。
進め方は「型を一緒に作る」です。例えば「予約変更のお願いに対する返信」を、まず店長と社員で「お客様のお名前」「変更の理由」「お店からの代替案」「感謝の一言」の4要素に分解する。それをChatGPTに伝えて、「丁寧で、冷たくならない、200字以内の返信文を3案出してください」と頼む。3案のなかから店長が選び、社員が送信する。最初の数回を店長と社員が一緒にやることで、「自分のお店らしい返信の型」が社員側にも伝わります。
注意点が一つあります。お客様の個人情報(氏名・電話番号・住所)は、AIの入力欄に貼り付けないでください。AIに渡すのは「文の構造」と「伝えたいニュアンス」だけにし、個人情報はメール作成時に人が手で入れる、という分担にします。これは飲食業のメニュー作成でも同じ考え方です。
3業種に共通する型を、明日から使えるプロンプトの形で1つ置きます。業種・場面を書き換えて、自社のChatGPTやClaudeにそのままコピペで使えます。建設・飲食・小売の3業種以外(美容・介護・農業・士業など)も、自社の業種・場面に書き換えればそのまま使えます。
あなたは私の業務をサポートする同僚です。 【業種】(例:建設業/飲食業/小売業) 【場面】(例:現場日報の作成/メニュー説明文の作成/顧客対応メールの下書き) 【今ある素材】(例:職人の口頭メモ/料理の素材と特徴/お客様からの問い合わせ内容) --- (ここに具体的な素材テキストを貼り付ける) --- 上記の素材から、次の条件で下書きを3案作ってください。 1. 文字数:(例:60文字以内/200文字以内/300文字以内) 2. 読み手:(例:現場関係者/一般のお客様/常連のお客様) 3. 温度感:冷たくならないよう、相手への気持ちを汲んだ表現で 4. 自社らしさ:丁寧・親しみやすい・かしこまりすぎない(自社の雰囲気に合わせて選ぶ) 3案を並べて出してください。私が一つ選んで手直しします。
このプロンプトは、社員と一緒に画面を見ながら「素材」と「条件」を口頭で埋めていく形で使うことを想定しています。社員側に「自分が何を入力すれば、どんな出力になるか」が見えると、AIへの抵抗感が一気に下がります。
採用面接で会話素材として使えること
本連載は採用優位の話ではないと書きました。ただし、これから入社してくる若手と面接で会話するときの「素材」としては、今回の数字は十分に使えます。「AIが使える人を選ぶ」のではなく、「AIをどう使ったか・使う意欲はあるか」を会話するための入口、という位置づけです。
面接で聞く質問の例を3つ置きます。どれも合否を決めるための質問ではなく、入社後の育成方針を決めるための質問です。
- 「学校で先生がAIを使って授業準備をしている、という話を見聞きしたことはありますか」(事実認識のレベル感を聞く)
- 「ChatGPTやGeminiなどのAIを、自分で何かに使ってみたことはありますか。差し支えなければ、どんな場面だったか教えてください」(経験の質を聞く)
- 「もし入社したら、業務のなかでAIに手伝ってほしい場面はありそうですか」(入社後の関心の方向を聞く)
3つに共通するのは、「正解」を求めない聞き方です。「使ったことがない」と答えた候補者を落とすための質問ではありません。むしろ、「使ったことがない人を、入社後にどう育てていくか」の前提を、面接の場で経営者側が掴むための質問です。求人票や採用面接シートの作り方は、シリーズ別記事求人票・採用文章をAIで作る方法で詳しく扱っています。
入社後30日の受け入れ設計までを含めて、AIを使った若手育成の流れを作りたい場合は、採用後30日のオンボーディングをAIで設計する方法が参考になります。今回の数字は、その入口にある「面接の会話」のレベルで触れる素材として使うのが現実的です。
自社のフェーズ判定。効率化か、業務の組み直しか
もう一段、経営判断の軸を置きます。今回の記事の章3で書いた「業種別の入口」は、別記事「AIで効率化」と「AIネイティブ」は何が違う?で言う「効率化フェーズ」の使い方です。今ある業務を、社員と一緒に少し速くする・楽にする使い方です。
一方で「業務の組み立て自体を変える」段階に踏み込んでいる会社もあります。たとえば現場日報を「人が書く」前提を捨て、「AIが下書き、人が承認」に組み直す。顧客対応メールを「店員が書く」前提から、「AIが下書きを並べ、店員が選んで送る」に変える。これは効率化ではなく、業務フローの組み直しです。「ネイティブ化フェーズ」と呼ばれる領域に近づきます。
自社がどちらのフェーズにいるかを、1問で頭の整理に使えます。「もし社内のAIアカウントを全部止めたら、自社の業務は今のままで回るか」。回るなら効率化フェーズ。回らない(または止まるところがある)ならネイティブ化フェーズに踏み込んでいます。
この問いは、社員や若手と一緒にAIを使い始めるときの「進度の合わせ方」を決める役にも立ちます。自社が効率化フェーズなら、若手と一緒に「今ある業務を少し楽にする」入口から始めるのが現実的です。ネイティブ化フェーズに踏み込んでいる会社は、若手にも「業務フローの組み直し」の議論に参加してもらう設計が考えられます。フェーズの違いは、人材育成の設計図の違いに直結します。
社内ルールは「変わらない原則」と「変えていく運用」を分ける
社員と一緒にAIを使い始めると、必ず「会社としてのルールはどうするか」という話になります。学校の現場でも同じです。先述のMM総研調査で「課題あり」と答えた教員のうち、39%が「ルール整備」を挙げています。経営者が頭を抱える領域でもあります。
一つの考え方として、教育AI活用協会が公開している協会ニュースリリース(2026年4月24日)が参考になります。要点を中小企業の経営者向けに翻訳すると、「変わらない原則(個人情報を渡さない・最終判断は人がする・自社の業務情報は会社が決めた場所でやる)」と「変えていく運用(使うツール・依頼の仕方・社内の共有方法)」を分けて設計するという考え方です。
原則は分厚い文書にする必要はありません。最初はA4一枚で十分です。「お客様の名前は入れない」「最終的に送る前に必ず人が読む」「会社の業務で使うときは、会社が決めたツール上でやる」。この3行があれば、社員と一緒に始める入口は守れます。運用ルールはやりながら少しずつ整えていく前提で構えるのが、現実的な進め方です。
編集部から:連載第1弾を「採用」ではなく「人材育成」で書いた理由
この記事は、本当は「採用優位」の話として書くこともできました。「AIを使える若手が欲しいなら、今から準備した方がいい」という切り口です。実際、編集会議のなかでもその方向の案が出ていました。ただ、最終的に「採用」ではなく「人材育成」で書くと決めた理由があります。
三河の中小企業の経営者の多くにとって、今日明日の課題は「これから入る新卒」よりも、「今いる社員と一緒に、どうやって会社を回していくか」です。学校でAIが進んでいる事実を「採用優位」の話にすると、今いる社員の話が抜け落ちます。これは媒体として、地元の経営者に対して不誠実です。
今回の数字(教員91%・全く活用なし16.3%・効果98%)が経営者に教えてくれるのは、「使う側の景色は3年で大きく動く」という事実です。これは採用の話の前に、今いる社員と一緒に少しずつ動き始めた方がいい、というメッセージとして受け取るのが、媒体として推奨したい読み方です。
次回(連載第2弾)は、「社員研修の始め方」を扱います。社長一人ではなく、3〜5人のチームで月1回1時間からAIを試す設計を、現場で使える形に分解して書く予定です。三河の中小企業の業種別の使い方は中小企業のAI活用5場面もあわせて参考にしてください。
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