- 何が起きたか(提訴から判決までの流れと、訴えられた相手)
- 「津田さんが負けた」は正しいのか(棄却の意味と、判決が判断していないこと)
- 判決が示した「声の権利」の条件(2つそろったとき)
- 法務省の報告書が示す、声とAI音声の考え方
- 判決がまだ判断していないこと(どこまで似ていたらアウトか、ほか)
- AIの声を仕事で使う前の確認(志水の見立て)と、明日からできること
約3分でわかる解説動画
2026年9月30日、東京地方裁判所は、声優の津田健次郎さんがTikTokを運営する会社(TikTok Pte. Ltd.)を訴えた裁判で、判決を言い渡しました。結論は、津田さんの請求を棄却(裁判所が請求を認めないこと)。一方で判決は、人の声がパブリシティ権(有名人の名前や声などが持つ「人を引きつける力」を、本人に無断で商売に使わせない権利)の保護対象になり得る、という考え方も示しています。
事実は、東京地裁の判決文(令和8年9月30日)と、法務省の検討会の報告書(令和8年8月7日公表)に書かれた内容にもとづいています。法律の専門家による助言ではありません。個別のケースは弁護士にご相談ください。控訴の有無は、私が確認した範囲では確認できていません。
結論:「負けた」でも「勝った」でもなく、AIの声の使い方に宿題が残った
先に結論です。請求は棄却ですが、理由は「声の使い方が適法だった」ではなく、投稿はすでに削除されていたからです。投稿が権利の侵害にあたるかどうかは、判決は判断していません。一方で、声がどんなときに保護されるかという一般的な考え方は、判決と法務省の報告書の両方に出てきます。中小企業にとって大事なのは、勝ち負けよりも、AIで作った声を広告や動画に使う前に、誰の声に似ているかを確かめる習慣です。
何が起きたか:投稿の削除を求めた裁判
津田さんは、声優・俳優・ナレーターとして活動しています。訴えたのは、動画の投稿者本人ではなく、動画投稿サイトを運営するTikTok Pte. Ltd.(シンガポール法人)です。投稿者は氏名不詳でした。求めたのは、問題とされた投稿の削除です。根拠は、不正競争防止法(他人の商品や営業と紛らわしいことをして競争する行為を禁じる法律。以下「不競法」)3条、またはパブリシティ権でした。
提訴から判決までの流れ(判決文より)
- 01
2024年7月〜2025年9月
氏名不詳の投稿者が、雑学のナレーション動画を188件投稿する(令和6年7月〜令和7年9月)
- 02
2025年に提訴
津田さんがTikTok運営会社を訴える(令和7年。月は判決文から確認できていません)
- 03
2026年5月29日
投稿者がアカウントを削除する(令和8年)
- 04
6月28日
30日以内に復旧の申請がなく、運営会社のサーバーからデータが削除された、と判決が認定
- 05
7月3日
口頭弁論終結(裁判所での審理が終わる)
- 06
9月30日
判決。原告の請求を棄却する
問題とされた投稿(判決文の「前提事実」と当事者の主張)
- 内容
- 映像と字幕に、都市伝説・心霊現象などの雑学のナレーションを組み合わせた動画188件
- 内容
- 令和7年11月時点でフォロワー21万人以上。各投稿に数千〜数万の「いいね」
- 内容
- 外部サイトに「声真似が上手い友人の声をAIに学習させたデータを使った。津田さんの声を無断で学習させたものではない」という趣旨の記載があった
- 内容
- 「ツダケンの声がする」など、津田さんを連想する書き込みがあった
- 内容
- 声が似ている。声には人を引きつける力がある。不競法違反・パブリシティ権の侵害だ
- 内容
- 普遍的な男性の声で似ていない。第三者の声をAIで加工したものだ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 投稿の中身 | 映像と字幕に、都市伝説・心霊現象などの雑学のナレーションを組み合わせた動画188件 |
| 人気の規模 | 令和7年11月時点でフォロワー21万人以上。各投稿に数千〜数万の「いいね」 |
| 投稿者側の説明 | 外部サイトに「声真似が上手い友人の声をAIに学習させたデータを使った。津田さんの声を無断で学習させたものではない」という趣旨の記載があった |
| コメント欄 | 「ツダケンの声がする」など、津田さんを連想する書き込みがあった |
| 津田さん側の主張 | 声が似ている。声には人を引きつける力がある。不競法違反・パブリシティ権の侵害だ |
| 運営会社側の主張 | 普遍的な男性の声で似ていない。第三者の声をAIで加工したものだ |
上の表の「友人の声を学習した」は投稿者側の説明、「似ていない」は運営会社側の主張で、判決はどちらも判断していません。この記事でも、投稿が「侵害だった」「違法だった」とは書きません。投稿者を特定する情報も載せません。なお、報道によると、投稿者は月に50万〜75万円の収益を得ていたとされますが、この金額は判決文には書かれていません。
「津田さんが負けた」は正しい? 棄却の意味
判決の主文は、「原告の請求をいずれも棄却する」「訴訟費用は原告の負担とする」です。ですから、形式の上では原告の敗訴です。ただし、請求が認められなかった理由は、声の使い方に問題がなかったからではありません。判決は、削除の対象である投稿がすでに削除されており、運営会社がさらに削除する義務を負うものではないから、請求はいずれも理由がないことが明らか、という理屈です。そして、「その余の争点についてこれ以上の判断はしない」としています。
棄却の理由は「もう無いから」
- 請求は棄却
- 投稿はすでに削除済み
- 費用は原告の負担
- 適法だったとは言わず
- 違法だったとも言わず
- 似ているかは未判断
判決が言ったこと/言っていないこと
- 判決が言っていないこと
- 声の使い方が適法だった、という判断
- 判決が言っていないこと
- 声の使い方が違法だった、という判断
- 判決が言っていないこと
- 今回の投稿が、その条件をそろえているかどうか
- 判決が言っていないこと
- 不競法に関する争点の判断
| 判決が言ったこと | 判決が言っていないこと |
|---|---|
| 請求は棄却。訴訟費用は原告の負担(形式上は原告敗訴) | 声の使い方が適法だった、という判断 |
| 投稿はすでに削除されたと認定 | 声の使い方が違法だった、という判断 |
| 人の声は人格の象徴。条件がそろえばパブリシティ権の侵害に当たる、という一般論 | 今回の投稿が、その条件をそろえているかどうか |
| 運営会社の「訴えの利益がない」(そもそも裁判をする意味がない)という主張は退けた | 不競法に関する争点の判断 |
「声の権利について、裁判所が初めて判断した」という報道もあります。報道では、声のパブリシティ権についての司法判断として初とみられる、と伝えられています。ただし、判決文自体に「初」とは書かれていません。出どころを分けて読む必要があります。
判決が言ったこと:声の権利が守られるのは「2つそろったとき」
東京地裁は判決で、まず「人の声は、人の肖像と同様に個人の人格の象徴である」という考え方を示しました。そのうえで、例えば実演家の声などを無断で使う行為は、声に商品の販売などを促す「顧客吸引力」があり、かつ、その力の利用を専らの目的としているときに、パブリシティ権の侵害に当たると解するのが相当だとしています。
侵害になるのは2つそろったとき
- 声に客を引きつける力
- がある
- (顧客吸引力)
- その力を使うことが
- ほぼ唯一の目的
- (専ら目的)
- パブリシティ権の
- 侵害に当たる
- (判決の一般論)
この記事で使う言葉を、身近な言い方に
- 身近な言い方
- 有名人の名前・顔・声が持つ「人を引きつける力」を、本人に無断で商売に使わせない権利
- 身近な言い方
- その人の声があると、商品が売れやすくなる力
- 身近な言い方
- ほぼそれだけを目的に、という意味
- 身近な言い方
- 裁判所が、請求を認めないこと
- 身近な言い方
- 他人の商品や営業と紛らわしいことをして競争する行為を禁じる法律
- 身近な言い方
- 裁判での審理が終わること。判決はこの時点までの事情で書かれる
| 言葉 | 身近な言い方 |
|---|---|
| パブリシティ権 | 有名人の名前・顔・声が持つ「人を引きつける力」を、本人に無断で商売に使わせない権利 |
| 顧客吸引力 | その人の声があると、商品が売れやすくなる力 |
| 専ら(もっぱら) | ほぼそれだけを目的に、という意味 |
| 棄却 | 裁判所が、請求を認めないこと |
| 不正競争防止法(不競法) | 他人の商品や営業と紛らわしいことをして競争する行為を禁じる法律 |
| 口頭弁論終結 | 裁判での審理が終わること。判決はこの時点までの事情で書かれる |
もう一点、読み方の注意です。判決は、この一般論を述べたあと、「削除請求の対象である本件各記事が既に削除されたか(争点3)が問題となっていることから、まず、この点について検討する」として、削除の有無の検討に進みました。声が保護対象になり得るという部分は、結論(棄却)を左右しない部分です。だからこそ、判決の結論だけでなく、この一般論も、正確に覚えておく価値があります。
法務省の報告書:声とAI音声について、8月に整理が出ていた
判決の約2か月前、2026年8月7日に、法務省の検討会が報告書を公表していました。正式名称は「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書」で、副題が「生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針」です(143ページ)。
検討会が、生成AIと声・肖像の問題について、どう考えるべきかを整理した「解釈指針」です。裁判所の判断ではなく、守らないと罰せられるという性質のものでもありません。報告書自身も、想定事例は事実関係を簡略化したもので、実際の紛争は具体的な事実を踏まえて判断される、としています。「こう考えるのが筋だ」という道しるべとして読むものです。
報告書の考え方 5つ
- 1声も対象声もパブリシティ権の対象
- 2似た声でも本人と識別できれば本人
- 3声まね芸名前を示せば原則対象外
- 4一般人の声みだりに使われない権利
- 5AIの提供者責任を問われる場合も
① 声も、パブリシティ権の保護の対象
報告書は、人の声もパブリシティ権の保護の対象になることを明記しています。声優の声自体に商品の販売などを促す効力があれば、顧客吸引力が認められます。また、氏名や顔が広く知られている必要はありません。特定の分野や一部の地域だけで知られている場合でも、一定の視聴者層に効力があれば、認められ得るとされています。
② 似た声でも、「本人の声」と識別できれば本人の声
声が本人と同一でなくても、似ていれば足ります。報告書は、声の似ている程度に加えて、本人を想起させる情報などを合わせて考え、聞く人が「本人の声だ」と識別できるなら、本人の声を使ったと認め得るとしています。声紋鑑定のような科学的な分析は、考慮要素の一つにはなるが、決定的な要素にまでなるわけではない、とも書かれています。
③ 声まね芸は、原則として対象外
物まね・声まねは、通常は芸をする人自身の名前などを示して行われるので、原則としてパブリシティ権の侵害には当たらない、と整理されています。ただし、芸をする人の名前を示さず、聞く人が本人だと誤解するような場合は、侵害になる余地があるとされています。
④ 一般の人の声は、「みだりに利用されない権利」で守られる
有名人ではない人の声は、パブリシティ権ではなく、声をみだりに利用されない権利(声の持つ精神的な価値を守る権利)で守られます。報告書は、一般の人の声であっても保護されるとしています。社員やお客さまの声を無断でAI音声にして使う場面は、こちらの考え方に関わります。ただし、報告書がこの点を検討した想定事例は、わいせつな内容の音源を公開した極端な例です。日常の業務動画にそのまま当てはまるとは限りません。
⑤ AIで似せた声を作って公表した場合
報告書の脚注は、本人の声に似た音声を意図的に生成して公表した場合には、AIの学習用データに本人の声が含まれているかどうかにかかわらず、権利侵害となる可能性があるとしています。偶然似てしまった場合も、似ていることに公表前に気づいたとき(または公表後に気づいたのに公開を続けたとき)は、侵害となる場合もあると書かれています。また、生成して公開した利用者が責任を負うと考えられ、有名人と似た声を簡単に作れることを売りにAIを有料で提供する場合などは、提供者の責任が問われ得るとされています。
報告書が例に挙げている使い方(パブリシティ権の3類型)
- 内容
- 声そのものを、鑑賞の対象となる商品として使う
- 例
- ボイスメッセージ、ボイススタンプなど
- 内容
- 商品の差別化のために、声を付ける
- 例
- 有名人の声が流れる目覚まし時計など
- 内容
- 商品の広告として、声を使う
- 例
- 広告のナレーション、有名人のなりすまし広告
| 類型 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 第1類型 | 声そのものを、鑑賞の対象となる商品として使う | ボイスメッセージ、ボイススタンプなど |
| 第2類型 | 商品の差別化のために、声を付ける | 有名人の声が流れる目覚まし時計など |
| 第3類型 | 商品の広告として、声を使う | 広告のナレーション、有名人のなりすまし広告 |
中小企業にとって注目したいのは、第3類型です。報告書は、広告等のナレーションへの利用を例に挙げています。広告・商品紹介・SNS動画は、この類型にかかわり得る場面です。収益を目的としない利用(社内動画など)は、報告書では別の想定事例で検討されていますが、この記事では内容を確認できていません。なお、政府の知的財産推進計画2026(令和8年6月12日決定)は、ガイドラインの作成と、不競法の改正を含めた法整備の必要性の議論を続けるとしており、この分野のルールは今後も動く可能性があります。
判決が判断していないこと:現場が知りたい「境目」はまだ空白
判決が判断しなかった4点
- 1似ている境目どこまで似たらアウトか
- 2不競法紛らわしい行為の争点
- 3学習元の立証友人の声を学習した場合
- 4運営会社削除義務があるのか
- どこまで似ていれば問題になるか:声の類似の程度についての判断は、判決にはありません。津田さん側は声の科学的な比較分析を出したと主張し、運営会社側は似ていないと反論しましたが、判決は判断していません
- 不競法に関する争点:他人の営業と紛らわしいかどうかを問う争点にも、判決は踏み込んでいません
- 友人の声を学習させたと説明された場合:投稿者側の説明が本当かどうかは、判決は判断していません。一方、法務省の報告書は、意図的に似せた声を生成して公表すれば、学習データに本人の声が含まれているかにかかわらず権利侵害となる可能性があるとしています。ただし、これは解釈の整理で、裁判所の判断ではありません
- 運営会社に削除義務があるか:判決は「仮に被告に削除義務が生じ得るとしても」と前置きして、すでに削除されているので、請求は理由がないとしています
投稿者側が「友人の声を学習させた」という説明を載せていたことについて、運営会社側は、この説明があるから津田さんの営業と混同するおそれはないと主張しましたが、判決はその点を判断していません。「AIの声です」と書いておけば安全とは言えない、ということです。
中小企業の実務:AIの声を仕事で使う前の確認(ここからは志水の見立て)
ここからは、判決と報告書を、中小企業の現場の判断に引き寄せたものです。法律の助言ではなく、志水の見立てです。基本の考え方は一つ。AIで作った声は、「誰の声に似ているか」を公開の前に確かめる。報告書は、似た声を意図的に作った場合だけでなく、似ていることに気づいたあとも公開を続けた場合まで問題になり得るとしています。AIが作った声でも、公開した側の責任が問われる、という前提で考えておくのが安全です。
AIの声を使う前の確認4ステップ(志水の見立て)
- 01
① 誰の声かを確かめる
AIが作った声は、何をもとにした声か。サービスの規約で、商用利用してよいか、元の声の許諾があるかを確認する
- 02
② 有名人に似ていないか
有名人・声優・ナレーターに似ていないか、複数の人に聞いてもらう。「似ている」と言われたら、公開しない
- 03
③ 許可を文書で残す
社員・取引先・お客さまの声を使うなら、使う範囲と期間について、本人の許可を文書で残す
- 04
④ 会社の確認を取る
勤務先で使うなら、上長・会社の確認を取ってから公開する。迷ったら弁護士に相談する
声を使う前のチェック5つ
- 1似せない有名人の声に寄せない
- 2出どころ誰の声か説明できる
- 3本人の許可社員・取引先は文書で
- 4上長の確認会社のルールに従う
- 5迷ったら公開前に弁護士へ
有名人・声優に「似た声」を、広告やSNSに使わない
報告書は、広告のナレーションを侵害の例に挙げています。「あの声優さん風」「あの俳優さん風」を売りにする使い方は、本人と識別される声を広告に使うことになりかねません。AIの音声サービスにも、有名人と似た声を簡単に作れることを売りにするものがあれば、使わないほうが無難です。
社員・取引先・お客さまの声は、本人の許可を文書で残す
- 個人情報保護法・取引先との秘密保持(NDA)・本人同意の論点があります:社員・取引先・お客さまの録音や声は、本人のものです。録音データの扱いには、個人情報保護法や取引先との秘密保持契約が関わる場合があります
- 勤務先で使う場合は、必ず上長・会社の確認を取ってください:会社に無断で社員の声や取引先の声をAI音声にして使うことは、懲戒や取引先からの信頼を失うリスクがあります。「バレなければいい」という使い方は、してはいけません
- 使う範囲と期間を、書面で残す:どの動画に、いつまで使うかを決め、本人のサインやメールの記録を残します。退職後の扱いも、あらかじめ決めておきます
- ツールの安全性を確認する:入力した声のデータが学習に使われるか、どこに保管されるかを、利用前に確認します
公開後に「似ている」と言われたら、止める判断を決めておく
報告書は、公表後に似ていると気づいたのに公開を続けた場合も、侵害となる場合があるとしています。公開した動画に「似ている」という声が届いたら、誰が判断して、どう止めるか。窓口と判断の手順を、先に決めておくと慌てません。
三河のものづくりに置き換えると:誰のものかを、先に確かめる
三河のものづくりの現場では、他社の図面や商標を断りなく使いません。AIの声も、考え方は同じです。使う前に、誰のものかを確かめる。たとえ話として、次のように置き換えられます(志水のたとえで、法律上の同じ扱いを意味するものではありません)。
ものづくりの現場と、AIの声の置き換え
- AIの声の場合
- 他人の声を、断りなく使わない(似せるのも要注意)
- AIの声の場合
- 有名人の声を、自社の広告につけない
- AIの声の場合
- 社員・取引先の声は、使う範囲を書面で決める
- AIの声の場合
- 聞く人が本人と識別する声は、問題になり得る(報告書の考え方)
| ものづくりの現場 | AIの声の場合 |
|---|---|
| 他社の図面を、断りなく使わない | 他人の声を、断りなく使わない(似せるのも要注意) |
| 他社のロゴ・商標を、自社の製品や広告につけない | 有名人の声を、自社の広告につけない |
| 取引先の図面は、使う範囲を契約で決める | 社員・取引先の声は、使う範囲を書面で決める |
| 紛らわしい製品は、問題になり得る | 聞く人が本人と識別する声は、問題になり得る(報告書の考え方) |
明日からできること
- 自社の動画・広告で、AIの声を使っているものを洗い出す:誰の声をもとにしたか、サービスの規約で商用利用が許されているかを確認する
- 有名人に似ていないか、3人以上に聞いてもらう:「誰かに似ている」と言われた声は、公開前に差し替える
- 社員や取引先の声を使うなら、先に上長へ相談する:本人の許可を文書で残し、使う範囲と期間を決める
- 迷ったら、公開前に弁護士に相談する:広告・商品紹介・SNS動画は、特に先に確認する
- 12026年9月30日、東京地裁は津田健次郎さんの請求を棄却。理由は、投稿がすでに削除されていたから。形式上は原告敗訴だが、声の使い方が適法・違法のどちらかは判断していない
- 2「津田さんが負けた」とも「声の権利が認められた」とも、そのままでは言えない。判決は、人の声は人格の象徴で、顧客吸引力があり、専らその利用を目的とするときにパブリシティ権の侵害に当たる、という一般論を示した
- 3声の権利が守られる条件は、「声に人を引きつける力がある」と「その力の利用がほぼ唯一の目的」の2つがそろったとき。ただし今回の投稿がそれに当たるかは未判断
- 4法務省の報告書(8月)は、似た声でも聞く人が本人と識別できれば本人の声、声まね芸は原則対象外、意図的にAIで似せた声を公表すれば学習データに本人の声が含まれるかにかかわらず侵害となり得る、と整理。ただし報告書は法律でも判決でもない
- 5判決は、どこまで似ていたらアウトか、不競法、運営会社の削除義務を判断していない。境目はまだ空白
- 6AIの声は、公開前に「誰の声に似ているか」を確かめる。有名人に似せない、社員・取引先の声は本人の許可を文書で残す、勤務先では必ず上長・会社の確認を取る、迷ったら弁護士へ(志水の見立て)
参考情報
- 東京地方裁判所 令和8年9月30日判決(令和7年(ワ)第70635号 投稿記事削除請求事件)裁判所ウェブサイト: https://www.courts.go.jp/hanrei/97097/detail7/index.html
- 同判決 全文PDF(9ページ): https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97097.pdf
- 法務省「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」取りまとめ報告書(令和8年8月7日公表): https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00778.html
- 同報告書 PDF(143ページ): https://www.moj.go.jp/content/001468288.pdf
- 提訴の経緯・判決の報道: ITmedia NEWS(2026年9月30日)、時事ドットコム(2026年9月30日)、弁護士ドットコムニュース、毎日新聞(2026年9月29日)、KAI-YOU(各記事のURLは本記事では未記載)
判決の内容(主文・理由・当事者の主張・認定された事実)は東京地裁の判決文、報告書の考え方は法務省の報告書を参照しています。投稿者が月50万〜75万円の収益を得ていたとされる点と、「声のパブリシティ権についての司法判断としては初とみられる」という見方は、毎日新聞やITmedia NEWSなどの報道に記載された内容を参照しており、判決文には書かれていません。控訴の有無と、その後の法務省・政府の動きは、2026年10月7日時点で確認できていません。本記事のうち、「勝ち負けでは語れない」という整理、「AIの声を使う前の確認4ステップ」「声を使う前のチェック5つ」、三河のものづくりへの置き換え、明日からできることは、中小企業の実務の観点から志水がまとめたもので、法律の助言ではありません。AIで作った声を、自社の広告や動画にどう使うか・どこまで確認するかを一緒に整理したい場合は、運営元の合同会社ICHI(愛知県豊川市)へご相談ください。

